精霊達の棲家
赤みを増し、蒼穹が恥らう様に微かな紅を差したかと思うと、山並みの稜線が色づき、やがて周囲の空間全てが朱から赤にいや丹に近い色に染まっていった。
道の傍らに樹齢20年位の柿の木がある、何故か果実はかなり残っていた。
道すがら竹の棒を拾い振り回していた折、柿の木に向かって
「甘(あま)な!!  甘な!! 」
と叫び、その棒で柿の木を頻りに叩いていたという。
兄貴が一個もいで食したところ、強烈にえぐい渋味が口を覆い思わず吐き出した。
素っ頓狂な声が響いた。
「お母ちゃんの顔、真っ赤や!!  兄ちゃんも姉ちゃんもや! 何でやろ!」
一つ上の姉が夕陽を背にして後退りしながら囃し立てた。
「ジローの顔も真っ赤やー みんな・・みんな・・真っ赤か!! 」
横並びの長い影が六つ、凸凹の道路に伸びていた。小さな影三つはふざけつつ、お袋を軸に周囲を駆け回っていた。
やがて点になり日没の陽の中に消えて行った。

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