精霊達の棲家
小学一年の春休み怪我で手術、市立大附属病院へ2週間程入院した。
当時この年齢での入院は付添が不可欠であった。
夜は患者ベッド下の床に茣蓙をその上に布団を敷くのだが、大学病院とは言えまだ戦後混乱期の影響が色濃く残っていた時代である。
衛生状態は今日とは到底比較にはならぬ。
夜中になると蚤(のみ)・虱(しらみ)・南京虫の類いが、DDTや消毒液の包囲網を掻い潜って何処からか忍び寄る。
アレルギー体質でもあったお袋は、その襲撃を受け全身特に脇や腹は、無数の小さな噛み疵によって、赤く酷く腫れていた。
耐え難いかゆみと掻けば爛れる、軟膏はあったがそれ程の効果はない。
後に笑い話で終わったが、その時の苦痛は想像を絶するものだったであろう。
その時知り合ったお袋と同輩の夫人とは、同じ苦楽を共にしたよしみもあり、その後40数年友人として交友があったとの由。
南方戦線で夫を亡くし、我が家と同じ子供5人を抱え殆ど一人で戦後を生き抜いた夫人である。


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