精霊達の棲家
「一年 いや 二年 年単位で経過を評価すべき、それがこの病の特性なのだから」
と、事を急いだり目先の症状に囚われ、本質を見失うことの‘謬’を戒めていた。
翌日理学療法士の白石氏の介助の許、ベッドから起き上がった。
躯体は麻痺による硬直状態で、まさしく冷凍マグロ同然だ。
身体を支えられながら、ベッド脇に座る。
支えの手を外されると右に左にゴロン ごろん。
自律性は全くない。
両の尻に恰もドーナツ型のエヤークッションを挟み込んでいるかの如き感覚である。
エヤークッションを介し尻の骨が直接ベッドマットに接しているため、上体のバランスが僅かに崩れても倒れる。
加えておしめの重ね着が、不快極まりなく股間に纏わりつき、座位の安定感を妨げる。
約1時間何度も何度も座る練習を繰り返したが、その日は自律して座ることは出来なかった。
尻の肉がクッションのフニョフニョに転化し、その感触が誤って脳に伝わっているらしい。
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