精霊達の棲家
ベッドの弾力が尻の座り具合に多少安定感を欠く要因となっているにせよ、平衡感覚をこれ程までに狂わしている要因は何なのか。
過去 病や怪我で一週間以上の病臥は十指に余る。
ベッドから起き上がった際程度の差こそあれ軽い目眩とフラツキが伴うが、数回繰り返せば平衡感覚は戻るのが常であった。
錯覚の連鎖は、66年間培ってきた自らの身体を掌(つかさど)る神経系に、かなりのダメージを与えているらしい。それはかって経験した事の無い異常現象である。
リハビリ初日はイントロで時が過ぎた。
何故座ることすら出来ないのか、このまま続けば寝たきり・・・、不安がよぎる。
その夜 爾後最悪のシナリオが夢うつつに現れては消え、何度か繰り返した。
翌日 ST・O氏による嚥下及び言葉のリハビリ初日である。
喉の通りが悪く、唾液でさえ呑込むのが難儀であった。
触刺激による反射運動で、反射の中枢は延髄にあるとされる。
触感覚が脳に伝わらないのか、或いは脳から反射運動に繋がらない機能障害なのか。
兎に角 もどかしい。
言葉も変調をきたしている、呷り口調で声が上擦る。
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