宵の花-宗久シリーズ小咄-
1
それは、ある夏の出来事だ。
彼岸も近い、夏の夕暮れ。
母は隣組の会合とやらで出掛け、妻は子供を連れ友人宅へと行き……。
一体、僕の夕飯は、誰が用意してくれるのだろうか。
そんな一抹の不安を感じつつ、僕はぼんやりと縁側から庭を眺めていた。
庭の向こう、杉林、連なる木々の上には、夏特有の炎の様な真っ赤夕焼けが、まるで青空を追い立てるかの様に、空へと駆け上がっていた。
日中の蒸し暑い熱気が、涼しい風に姿を変え、僕の頬を撫でていく。
何だかいい気分だ。
たまには、一人も悪くないな。
散歩にでも出てみようか。
冷えかけていく空気を感じながら、一人、のんびり歩くのもいいだろう。
思いつき、腰を上げた僕の耳に、女性の声が届いた。
「……あの」
浮かせかけた腰を止め、再び庭へと視線を移す。
今、声が聞こえた。
呟く様な…風にさえ乗って掻き消えてしまいそうな、遠慮がちな細い声。
「あの……このお宅のご主人でごさいますか?」
.
彼岸も近い、夏の夕暮れ。
母は隣組の会合とやらで出掛け、妻は子供を連れ友人宅へと行き……。
一体、僕の夕飯は、誰が用意してくれるのだろうか。
そんな一抹の不安を感じつつ、僕はぼんやりと縁側から庭を眺めていた。
庭の向こう、杉林、連なる木々の上には、夏特有の炎の様な真っ赤夕焼けが、まるで青空を追い立てるかの様に、空へと駆け上がっていた。
日中の蒸し暑い熱気が、涼しい風に姿を変え、僕の頬を撫でていく。
何だかいい気分だ。
たまには、一人も悪くないな。
散歩にでも出てみようか。
冷えかけていく空気を感じながら、一人、のんびり歩くのもいいだろう。
思いつき、腰を上げた僕の耳に、女性の声が届いた。
「……あの」
浮かせかけた腰を止め、再び庭へと視線を移す。
今、声が聞こえた。
呟く様な…風にさえ乗って掻き消えてしまいそうな、遠慮がちな細い声。
「あの……このお宅のご主人でごさいますか?」
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