宵の花-宗久シリーズ小咄-
「お帰りなさい、母さん」






彼女が言った通り、母が帰宅した。



しかし、何やらそわそわと辺りを見回している。







その理由に僕は気付いてはいたが、意地悪心が湧き、居間にてお茶をすすりながら、横目でそれを追い掛けていた。











大体、母が悪い。



彼女を玄関等に忘れたりするからだ。




水が恋しいと、僕に声を掛けてくる程までに追い詰めて。









足袋で畳を拭いているかの様に、歩き回る母。


ちらりと見つめ、僕はこそりと笑う。




意地悪でもしない限り、僕の気は晴れないだろう。











「宗久さん」



僕の後ろを右往左往していた母が、ようやく声を掛けてきた。






「何ですか?」

「あなた、玄関にあったものを知りませんか?近山さんから頂いた……」







近山さん。


梅屋敷の主人の名だ。





えぇ、よく知っておりますよ。

頂いたもの。











「探しものは、あそこですよ」






僕は、居間の隣部屋に置かれた仏壇を指した。





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