宵の花-宗久シリーズ小咄-
強く、たくましく………そして美しい。




彼岸に咲き、尽きる花。


己が咲くべき季節を見極め、命一杯に輝く。





それは、自然が作り上げる命の証なのだろう。

















彼岸が過ぎ、夏の余韻が去り、秋風が黄金の稲穂を揺らし始めた頃。





僕は庭にて、水をまいていた。







彼岸前は緑が強かったモミジの葉も、徐々に黄色味を帯びてきている。



もうじき、本格的な秋がこの地の景色を変えるだろう。








水道の蛇口を締め、僕は軽く伸びをした。





秋は過ごしやすくていい。











「………宗久様」










……聞き覚えのある声だった。










庭の隅、声のする方へと顔を向けた。











彼女だった。









桜の木の下、彼女は立っていた。





秋風が、朱色の袖を微かに揺らしている。










「わたくし、宗久様にお別れが言いたくて…」







彼女は、悲しそうにうつむいた。










もう、時期がきたのか。






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