宵の花-宗久シリーズ小咄-
「行くのですね」

「はい」




黒髪が、さらりと彼女の白い頬に流れ落ちた。




夏の賑わいがおさまりかけた庭の景色が、彼女の儚さを包み込んでいる。









花の命は短い。


それは、彼女達自身がよくわかっているのだ。




自分の季節は終わりだと、こうして告げに現れる。





潔く、そして……淋しい。










「また、お会いできますでしょうか」







期待を含んだ彼女の、その黒曜石の様な瞳に、僕は笑いながらうなづく。







「会えますよ」

「本当でございますか?」

「ええ…また会いましょう。あなたの美しい姿を、来年も僕に見せて下さい」






「………嬉しい」





彼女は、微笑んだ。



まるで、少女の様に。










季節が流れれば、また、あなたが美しくなる時が来ます。




また来年、会いましょう。









「宗久様、来年までお元気でお過し下さいませ」









そうして、静かに、彼女の姿は消えた。




朱色の鮮やかさを、僕の脳裏に刻んで。






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