宵の花-宗久シリーズ小咄-
「このお宅は、庭が生きていらっしゃいますわね」




庭を見つめる彼女につられ、僕もまた、庭へと視線を移す。









夕焼けが、すでに一面に広がっていた。




空も地面も、彼女が着ている着物の様な朱色に染められた庭の景色は、独特の世界観を感じさせる。



まるで、朱いスノードームの中に居る様な感覚だ。




それを見つめる彼女の瞳も、また、その色を鮮やかに反射させている。





強く、たくましい色……。









「このお庭の主は、あの紫陽花でございますね」



そう言い、彼女はゆっくりと、枝のみにされた紫陽花を細い指で指し示す。






「わかりますか?」

「はい、一番古いのはあの桜ですが、彼女は少し気まぐれですわね」









確かに、あの桜は気分屋だ。


花を早く散らせたり、満開をじらしたりする悪戯好きだ。





毎年、植木屋に手入れを依頼してはいるが、それでも気分次第で花を咲かせる。




なぜなのかと首を傾げる母を見て、毎年、僕だけが笑えてしまうのだ。






.
< 6 / 14 >

この作品をシェア

pagetop