宵の花-宗久シリーズ小咄-
「ですが、わたくしにあなた様の居場所を教えてくれたのは、あの桜です。わたくしは気に入られた様でございます」




はにかむ様に、笑う彼女。


笑みを返し、再び庭を見つめる。









季節を過ぎ、細い枝を裸にされた紫陽花も、これからの季節に備え、掌の様な葉を伸ばし始めたモミジの木も、己の輝く時期を待ち望んでいる。


どこからか飛んで来て、庭に居着いた山百合も、未だ土の中で眠る草花も。






そんな草花の囁きは、毎年、次の季節の訪れを僕に教えてくれる。


だから多分、僕は誰よりも四季を感じているのだろう。





肌で、耳で、感覚で。



移ろいでゆく、春夏秋冬を。











「わたくし……もう戻りませんと…」








庭を見つめていた彼女は、淋しそうに溜息をついた。



哀愁が吐息となり、空気に溶け込む。




「もう、戻るのですか?」

「はい…もうじきに、宗久様の母君がお帰りになりますわ」







柱時計を見た。





六時近い………。




確かに、会合は終了している時刻だろう。






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