先生観察日記
「できないんだったら、このジャンルを書くのは諦めろ。
そんなに禁断の恋愛が書きたいんだったら、歴史小説で身分違いの恋でも書いたらいいだろ?
勉強にもなるし」
身分違いの恋……?
手っ取り早く目の前の松本先生と私をモデルに、今度は歴史小説ネタをひねり出そうとしてみた。
そう、いつでも、どんな時でも楽しく妄想できるのが、私の幸せな特技。
二人ともどう見ても日本人顔だから、外国が舞台の歴史小説は思い浮かばない。
となると。
……私はおきゃんな町娘。
ある時、奉公先の呉服問屋にお忍びでやってきたお殿様こと松本健之介貴影。
実はここ、わいろの受け渡しなんかに使われているお店で、お殿様自ら内偵に乗り出した訳ね。
身をやつして、浪人風の格好でふらりと現れる。
そこにいたのが、何も知らずにのほほんと愛想笑いを浮かべる私。
それを見たお殿様に一目惚れされ……る訳ないじゃん。
お殿様が惚れる要素、ひとつもなしっ!
『たわけ者! しっかり働かんか!』
なんていうセリフがすぐに頭に浮かび、私の妄想タイムはあっけなく終わった。
……妄想タイム中、松本先生は、冷やかに私を見つめていたらしいと今更気づきました。