さよなら、ありがと。
寝てしまっていたあたしの体は少しだけ冷たくなっていて、自分の学ランをかけてくれていた瑛太の優しさが嬉しかった。
風と共に香る瑛太の匂いに、胸が締め付けられる。
あたしはギュッと学ランの裾を握りしめた。
「美音、」
「ん―?」
「初めてサボった今の心境は?」
マイクを持っているかのように拳を顔に近付けてふざけている瑛太が面白いから。
「最悪よ」
あたしもわざと怒っているみたいに答える。
なんでだよ―とすねる瑛太が可愛くて、ついにあたしは笑ってしまった。
「嘘。本当はちょっとドキドキしてる。なんか、いけないことしてるってスリルがあって面白い。卒業前にこういうのも良いかもね」
悪戯に成功した幼稚園みたいに、あたしはワクワクしていた。
瑛太も嬉しそうに微笑む。
そう思ったのは束の間で、次の瞬間瑛太は新しい悪戯を思い付いたようにあたしの顔を見た。
コホンと大げさに咳払いなんかしちゃって「では美音さん」と改まってこう言った。
「いけないことついでに、もうひとつスリルを味わいませんか?」