さよなら、ありがと。
「うっわ、気持ち良い―」
どちらからともなく飛び出た言葉。
だけど、これが一番わかりやすい感想。
「あたし、屋上初めて入るよ。立ち入り禁止だもん」
「俺も。意外と普通だな」
「瑛太は初めてじゃないでしょ!鍵開ける手付きが手慣れてたよ―?」
「バレたか」
あたしたちは顔を合わせて笑った。
まだ若干肌寒い風が二人の間をすり抜ける。
「わ、寒っ」
思わずそう漏らしたあたしに、ほれ、と瑛太が先ほどの学ランを手渡してきた。
「ありがと」
今日の瑛太はやけに優しくないだろうか。風邪引くなよ、なんて言っちゃってさ。
そんなんじゃ、あたしの調子も狂っちゃうじゃない。
なんだか淋しくなるから、辞めてよ。瑛太。
屋上に出たあたしたちは、とりあえず水道タンクの裏側、学校全体を見渡せる場所に腰をおろすことにした。
体育館から明日のための仰げば尊しの合唱が聞こえてくる。
そのメロディが哀しくて、もうあたしたちに残された時間が短いことに気付かされる。
あたしは今度はちゃんと、瑛太の横に座った。瑛太の左側に。
やっぱり、この距離が一番落ち着く。
ずっと、これがあたしたちだったもんね。