さよなら、ありがと。

「うっわ、気持ち良い―」


どちらからともなく飛び出た言葉。
だけど、これが一番わかりやすい感想。


「あたし、屋上初めて入るよ。立ち入り禁止だもん」

「俺も。意外と普通だな」

「瑛太は初めてじゃないでしょ!鍵開ける手付きが手慣れてたよ―?」

「バレたか」


あたしたちは顔を合わせて笑った。


まだ若干肌寒い風が二人の間をすり抜ける。


「わ、寒っ」


思わずそう漏らしたあたしに、ほれ、と瑛太が先ほどの学ランを手渡してきた。


「ありがと」


今日の瑛太はやけに優しくないだろうか。風邪引くなよ、なんて言っちゃってさ。


そんなんじゃ、あたしの調子も狂っちゃうじゃない。


なんだか淋しくなるから、辞めてよ。瑛太。


屋上に出たあたしたちは、とりあえず水道タンクの裏側、学校全体を見渡せる場所に腰をおろすことにした。



体育館から明日のための仰げば尊しの合唱が聞こえてくる。


そのメロディが哀しくて、もうあたしたちに残された時間が短いことに気付かされる。


あたしは今度はちゃんと、瑛太の横に座った。瑛太の左側に。


やっぱり、この距離が一番落ち着く。


ずっと、これがあたしたちだったもんね。

< 14 / 22 >

この作品をシェア

pagetop