さよなら、ありがと。
「美音はさ、この高校生活でやり残したこととかある?」
瑛太が急にこっちを見たから、慌てて涙を堪えた。
多分あたし、今すごく変な顔してる。
「やり残したこと?」
なるべく明るい声で返した。大丈夫、ばれてない。
「瑛太は何かあるの?」
「俺?ん―強いて言うなら、部活とかで青春してみたかったかも」
「それはあるかも。いかにも学生って感じだもんね」
「でも、こうやって帰宅部で、美音とくだらないことばっか話してたのも楽しかったけどね」
そう言って、瑛太はくしゃっと笑った。
…ねぇ、瑛太。今のそれ反則。その言葉、すごく嬉しい。
あたしも、瑛太と一緒にいれて楽しかった。嬉しかった。同じ気持ちで良かったよ。
「んと、あたしはね…実は一度で良いからサボってみたかった!
漫画とかドラマみたいに、授業抜け出して屋上とかで昼寝しちゃったり!?
本当はすごく憧れてた」
「マジで?今日両方とも体験しちゃったじゃん」
「うん、卒業前に味わえて良かった。瑛太には感謝してる」
「そりゃど―も」
瑛太はちょっと照れたみたいで、ぶっきらぼうに言った。
本当に、感謝してるんだよ。
一緒にサボってくれたのが瑛太だったから。余計に特別なんだよ。