さよなら、ありがと。

時間は、無情にも過ぎていく。


いつの間にか遠くの空が、夕焼けに染まっていた。


予行練習もどうやら終わったようで、ぞろぞろと生徒たちが体育館から出てきた。


あたしたちはずっと何も喋らないで校舎を見ていた。


急に瑛太が立ち上がったから、あたしもそうした。


「この学校とも、お別れか」

「何?寂しいの?」


「当たり前だろ、お前。三年間を過ごした場所だろ」


茶化したあたしに、意外にも真剣に答えるから、あたしも改めて考えさせられる。


瑛太と出会ったのも、一緒に笑い合ったのも、確かにここでだった。


会いたい時は、いつでも会えた。


「懐かしいよなぁ、三年前の入学式の日とか」


お前覚えてる?とフェンスによりかかった瑛太の背中に、返事の代わりにあたしは頷く。


「自己紹介の時にさ、お前皆に向かって苗字で呼べ、だもんな。俺あん時笑っちゃって。こいつなかなか面白いヤツだなって感じたんだよな」


あたしから瑛太の顔は見えないけれど、きっと優しい顔をしてるんだろうな、と思った。


「だって、嫌いだったんだもん、名前」

「何で?あの日も言ったけど、お前の名前、すごく綺麗で良い名前じゃん」


振り向いて、瑛太が言う。


―――すごく綺麗で良い名前じゃん―


呼吸を忘れた。
視界がじわりと歪む。


…あの日と同じ言葉。
同じ笑顔で言うから。


覚えてくれていた。それだけで幸せなのに。


何で哀しくなるの。


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