さよなら、ありがと。
「ねぇ瑛太。やり残したこと、もうひとつあった」
もう無理。抑えることなんて出来ない。
「あたし、瑛太に言ってないことがある」
瑛太は真っ直ぐにあたしを見つめる。
「あたし…あの日瑛太に良い名前だって言われて、嬉しかった。笑いかけてくれて、すごく嬉しかった」
あの日からあたし、自分の名前が好きになったんだよ。
大事にしようって思ったんだよ。
「それに、今まで瑛太と一緒にいれて、馬鹿みたいに二人で笑い合えて、本当に楽しかった」
「うん」
「あたし、瑛太のそばにいる時間が、好きだった。瑛太の隣で、美音って名前を呼ばれるのが、一番好きだった」
「うん」
「言ったら、今までの関係が壊れちゃいそうで。そばにいれなくなりそうで、ずっとずっと言えなかったけど―」
ここまで言って、あたしは深呼吸をした。
涙は気にならなかった。
声も震えるけど、瑛太は一言一言しっかり受け止めてくれていた。
大丈夫。もう逃げたりしない。自分の気持ちに嘘付くなんてしたくないから。
今はもう、瑛太だけしか見えない。
「あたし、瑛太が好き。大好き。ずっとそばにいたい。卒業なんてしたくない」
――言った。全部言った。言いたくて言えなかったこと、気付いた気持ち、みんな伝えた。