氷狼―コオリオオカミ―を探して
チェイサーはいきなりあたしにキスをした。

それから真剣な眼差しであたしを見て言った。

「先に行く。お前はゆっくり下りて来い。必ず家に帰してやるからな」


あたしが黙ってうなずくと、チェイサーは階段を駆け下りていった。

毛皮のマントが風に翻り、まるで彼自身が冬の狼のように見えた。


チェイサーがあんなにあたしを帰したがるのは、本当は自分も帰りたいからだ。

それでもなお、一瞬たりとも後悔したことがないという彼の願いは何だったの?


あたしは階段を下りながら思った。


あたしはどうなんだろう。

あたしとずっといたいと言った彼を置いていける?

来る日も来る日も冬を追う暮らしに我慢できる?

特別大きな夢がある訳じゃないけど、楽しかった人間の日常を捨てられる?
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