氷狼―コオリオオカミ―を探して
桜咲く日
1
向かいの家から翔くんが出て来た。
犬の散歩らしい。
足元で白い小さな犬が嬉しそうにクルクル回っている。
あたしが退院してからもう一ヶ月以上たつ。
あれから翔くんは――この漢字を使うのだってことも含め――事あるごとにあたしに記憶を取り戻させようとする。
いくつかは、あたしの十年前の記憶と重なるエピソードもあったけれど、残りのほとんどは知らない話だ。
翔くんが誰かと過ごした思い出を、あたしを相手としてすり替えられたように思えた。
だんだんと
あたしは無口になり、最近は翔くんを避けている。
周りの誰もが『ケンカでもしたの?』ときく。
友達にきいてみると、翔くんの印象はとても薄い。
無理もない。
本当は彼のことを知らないのだから。
犬の散歩らしい。
足元で白い小さな犬が嬉しそうにクルクル回っている。
あたしが退院してからもう一ヶ月以上たつ。
あれから翔くんは――この漢字を使うのだってことも含め――事あるごとにあたしに記憶を取り戻させようとする。
いくつかは、あたしの十年前の記憶と重なるエピソードもあったけれど、残りのほとんどは知らない話だ。
翔くんが誰かと過ごした思い出を、あたしを相手としてすり替えられたように思えた。
だんだんと
あたしは無口になり、最近は翔くんを避けている。
周りの誰もが『ケンカでもしたの?』ときく。
友達にきいてみると、翔くんの印象はとても薄い。
無理もない。
本当は彼のことを知らないのだから。