氷狼―コオリオオカミ―を探して
「好きだけど、気詰まりなんだ」

あたしはうつむいた。

「悪いけど、たぶんあたしはこの先もあたし達の事は思い出せない」


存在しないものは思い出せない。


「ずっと、俺達は特別なんだと思っていた」


「特別だよ」


「何も覚えていないくせに、どうしてそんな事が言える?」


「記憶って、とても曖昧なの。時には大切なことも朧げになってしまう」


あたしは目を上げて翔くんを見た。

夏の海を思わせる青い瞳と目が合う。


「でも、それでも、あたしはあなたを愛してる。ずっとずっと愛してる」


翔くんはじっとあたしを見つめた。


「無理に思い出させようとしなかったら、一緒にいてくれるか?」
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