氷狼―コオリオオカミ―を探して
「忘れなくてすむ方法はないの?」


チェイサーは首を横に振った。


「そんなことを思ってはいけない。願い事を無駄につかう事になるぞ。『家に帰りたい』とだけ強く思っていろ」


「忘れたくない」


「俺が覚えている。ここで一緒に見た景色も。お前が教えてくれた冬以外の景色も」


あたしは泣きたくなった。


どうして?

あたしには初恋の思い出さえ残らないの?


ちがう ちがう ちがう


これは恋なんかじゃないんだから!


あたしは、チェイサーの白い髪に手をやった。


チェイサーがあたしに近づき、少し顔を傾ける。


これは恋なんかじゃない

絶対に


たとえ、彼の唇があたしに触れても

たとえ、心臓が壊れそうなくらい鼓動をうっていても

たとえ、あたし達が固く抱き合ったとしても


これは恋なんかじゃない


だって


だって、これが恋なら切なすぎるもの
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