さよなら、記憶
高1のとき、屋上で何気なくひとりで寝ているときに声をかけられた。

「お前って確か5組の佐藤だよな」

暖かい声だった。

俺はそいつの顔も見ずに適当に返事を交わした。

なんて言ったかは正確に覚えていない。


「俺、1組の九条玲太」

俺の前髪を掴んで無理矢理自分の顔を見せたそいつは金色の髪に多数の顔面ピアス。

制服は俺と同じような着こなし。


俺はそいつの名前だけ知っていた。よく郁也が口にしていた。

でも会ったのはこのときが初めてだった。


「…女?」

「は!?」

まさに図星。否定するより先に驚いた。

確かに容姿は目が大きく開いていて声変わりがまだだと言うほどの声の音程。

男にしては肩も薄い。


だからって、


「は?お前俺のことなめてんの?」

「っはは、ならキスしてやってもいいけど?」

「ふ、ふざけんのも対外に…」


そんな軽いノリでファーストキスは奪われた。

初対面の相手に。


「俺が惚れたんだから男なわけねぇよな?」


そう言った彼にだけ俺は本当のことを打ち明けた。


聞けば玲太は前から俺のことを知っていたらしい。

まさか惚れられてたなんて俺にも分からなかったけど。


告白だけ受けといて俺が返事を返すことはなかった。

これが俺と玲太の出会いだった。
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