P a i n .
荷物を取ってから、僕は、あの場所へ向かって歩いていった。
橙色に染まる空と、頬を掠める冷たい風。
そんな、当たり前の景色だからこそ、行きたい想いが強くなる。
着いた僕は、ブランコに座った。
『涼、お前はいい子だな。』
『女の子なんだから、もっと可愛らしくいなきゃダメでしょ?』
『涼ってば、慌てん坊なんだから…。』
ブランコを漕ぐ音だけが、静かな公園に響く。
『涼、また…な。』
漕ぐのを止めた。
激しい頭痛がする。
あの事だけは、今になっても忘れられない。
忘れる訳が、ない。
「……帰ろう。」
寂しくなった僕は、そう、呟いた。
小さな小さなその声は、暗くなった空の闇に、吸い込まれていった。
今日は、長く居すぎた。
こんなところにいたって、戻れる訳じゃないのに。
何も……変わらないのに。
空を仰ぐと、白い月がこちらを見ていた。
その月は明るく、輝いていた。
暗い闇を、追い払うように。
その輝きが、僕には妬ましかった。
嘲笑うように見えた月に、僕は目を逸らした。