P a i n .
「だから、知らないって言ってるでしょ!?」
家に入った途端に、怒声が聞こえてきた。
…また、かよ。
僕の手は、微かに震えていた。
「本当にめんどくせー女だな。 亭主の言うことも聞けないって言うのかよ!」
心はどうとも思っちゃいないが、身体は素直だ。
震えを抑えながら、そっとドアを閉め、音を立てずに自室へと向かった。
自室に入り、ベッドに横になった。
『お前は、あの女みたいに言うことを聞いてくれるよな?』
激しい頭痛がする。
なんでこうも、嫌な思い出ばかり……。
僕は、引き出しから刃物を取り出した。
肩を出した状態にして、刃を突き立てた。
いつもより深く、長く。
一瞬、痛みに顔を歪めたが、すぐに戻った。
『ほら…、早く開けよ』
あの事を思い出すよりだったら、この方がずっとずっと楽だ…。
刃を抜くと、傷痕からぷくっと赤い血が溢れる。
まだ…足りない…っ!!
─…どれぐらい、繰り返しただろう。
左肩は、赤で染まっていた。
─…僕が生きてる証は、これでしか感じられないんだ。
服を直してから、僕は眠りについた。