P a i n .




 「だから、知らないって言ってるでしょ!?」


家に入った途端に、怒声が聞こえてきた。


…また、かよ。

僕の手は、微かに震えていた。


 「本当にめんどくせー女だな。 亭主の言うことも聞けないって言うのかよ!」



心はどうとも思っちゃいないが、身体は素直だ。

震えを抑えながら、そっとドアを閉め、音を立てずに自室へと向かった。




自室に入り、ベッドに横になった。


 『お前は、あの女みたいに言うことを聞いてくれるよな?』


激しい頭痛がする。




なんでこうも、嫌な思い出ばかり……。



僕は、引き出しから刃物を取り出した。


肩を出した状態にして、刃を突き立てた。


いつもより深く、長く。

一瞬、痛みに顔を歪めたが、すぐに戻った。


 『ほら…、早く開けよ』


あの事を思い出すよりだったら、この方がずっとずっと楽だ…。



刃を抜くと、傷痕からぷくっと赤い血が溢れる。



まだ…足りない…っ!!




 ─…どれぐらい、繰り返しただろう。




左肩は、赤で染まっていた。



 ─…僕が生きてる証は、これでしか感じられないんだ。




服を直してから、僕は眠りについた。



< 20 / 22 >

この作品をシェア

pagetop