P a i n .
そっと、風がふいた。
屋上にふくこの冷たい風が好きだ。
なにもかも、包んでくれそうで……。
─風よ、僕を連れていってよ。
僕は、フェンスに手をかけた。
よじ登り、向こう側についた。
あまり足場がなくて、立ちづらい。
─もう、消えてしまえ。
フェンスを掴んでいた手を離そうとした瞬間だった。
「死ぬつもり?」
背後から低い声が聞こえた。
気が付くと、そこには見知らぬ男が立っていた。
黒髪で、細くて、冷たい瞳の男。
少しだけ、僕より年上の雰囲気の人だった。
「…だったら、何?」
「いや、別に。
死ぬつもりなら止めない。」
「は?」
意味が分からない僕は、首を傾げた。
「でもあんたは、まだ躊躇ってる。
死にたい。でも、死ねない。死にたくない。生きたい。
そんな風に見えたから、声をかけたまでさ。」