あと一歩、もう一歩。
「みや…ありがとう。」
隆は呟いた。
私は俯いたまま。
「…みや、俺が言いたいこと、分かるよね。」
「………うん。」
「…みやが、あの時俺にしてくれたことを、大陽くんにすればいいんだよ。」
…幼い記憶が脳裏をかすめる。
「………うん。」
ポタッと、私のノートにも水滴がついた。
まだ12歳だった私。
人が死ぬ悲しみなんて知らなかった私。
でも1つ。
隆が悲しんでいることだけ、わかった私。
『隆、私がいるよ。
だから、寂しくないよ。』
背中をポンポンと叩き、涙も流さず呆然とする隆に話しかけたのは、12歳の私。
大陽は、荒れてるんじゃない。
寂しがっていたんだ。
「…隆。
ありがとう。」
顔をあげると、そこには涙でくしゃくしゃの顔を、笑ってさらにくしゃくしゃにした、隆の笑顔。
私が、大好きな笑顔、だった。