あと一歩、もう一歩。
「……隆。
待って。」
緩む頬を引き締めようとうつむきながら少し小走り。
直射日光の差し込む廊下は、みんなが帰ったあとだからか、静かだった。
「今年も始まったなぁ、夏休み。」
私が隆の横までくると、隆はうーんと腕を伸してストレッチ。
「…どうせ今年も、バイトばっかするんでしょ。」
隆は、高校生になってからずっとバイト三昧な生活を送っている。
そのわりには勉強はよく出来るから、附属大学には推薦で余裕に行ける。
だから夏休みも勉強しないんだろうな。
正直、羨ましい。
そんなことを考えていると隆は渇いた声で笑う。
「ははっ…んなわけないだろ。
勉強、勉強。」
予想外の答えに、隆を思いっきり見る。
「…隆なら、推薦で行けるじゃん。」
「…俺、違う大学受けるんだ、一般で。」
「え…。」
また、隆を見た。
隆の表情は、いつになく真剣だった。