あと一歩、もう一歩。
「どこ…受けるの。」
「東京の、国立。
俺ん家、経済的に私立はもう行けないからさ。」
そう、ここはド田舎に建つ私立高校。
というか、人口が少ないからか公立高校が近くにないのだ。
「…国立はわかるけど…
なんで東京なの?」
ドクドクと嫌な鼓動が鳴り響く胸を押さえて、隆の横顔を見る。
隆の黒くて短い髪が、廊下の窓から入ってくる風になびいて、ゆらゆら揺れる。
「…俺、学校の先生になりたいんだ。
だから東京のさ、教育で有名なとこ、行きたいんだ。」
隆は、ニカッと笑う。
希望に満ちた、そんな顔。
知らないかった。
隆に、そんな夢があったなんて。
「バイトも、大学行くための費用にしようと思ってやってたんだ。
国立も、金かかるしな。」
隆は、またニカッと笑った。
なんだか私には遠い人に見えてくる。
隆が、夢に向けて頑張ってたなんて知らないかった。
ただヘラヘラしているんだとばっかり思っていた。
私、隆のなにを見ていたんだ。