逆転リバース

『なんで切った』

「……ごめん。仕事の途中で」

『声がエコーになってるが?』

「……今来たの」


苦しい嘘だということは分かってる。
今の私は本当に壊れてしまいそうだ。


『なあ、ドラマ撮影だって?』

「……うん」

『どんな内容だ?』

「来年に放送だし、その時見てよ」

『……聞いた話だと、キスシーンがあるとか?』

「……」

『まあ、役者だからその辺は何も言わない』


私も仕事なら何も言わないよ。
でも、写真は仕事じゃないしね。


「あるよ、キスシーン」

『……そう』


それだけ?
ヤキモチとか問題じゃなく、もう少し何か反応を示してくれても良いじゃん。


『消毒しろよ。相手に二度と会うな』

「っ、椿には関係ないじゃん! 私、帰らないから!」

『はあ!?』


驚く声が電話から聞こえるが、私は思ったよりも冷静な声だった。


「ちょっと距離を起きたいの」

『……分かった。ちゃんと戻ってくるんだよな』

「うん」

『体に気を付けろよ』


なんで、そんな優しい言葉をかけるの?
心がギュッとなって、泣き出しそうになる。

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