記憶 ―流星の刻印―
「…揚羽っ?」
私は蓮の手から逃れると、
その小さな体の目の前に平然と腰を下ろした。
「…ちょっ!」
「大丈夫よ、まだ子供じゃない。それに怪我してる。手当てしてあげなきゃ死んじゃうわ…」
私の胸にでも抱えられそうな大きさ。
幼い虎が1匹で高い山や広い砂丘の地を越えられるはずはないから、鷹か鷲か…、鋭い爪で捕まえられて空を渡って来たのかもしれないわ。
可哀想…、
独りで、知らない土地に置き去りなんて…。
「危ないって!噛まれるぞ!」
「もう、うるさいわね。落ち着いてよ、蓮。余計にこの子の神経を逆撫でるだけだわ。」
獣に手を伸ばそうとする私に、
蓮が慌てて叫んでいる。
「揚羽!止めなさい!どうせ助けても、残念だけどその虎は殺されるよ!」
「――は?何でよ!?」
私は怯える蓮の瞳を睨んだ。
「…ここは草原の地だ。他に肉食動物が居ないから平和なんだよ?村には馬や牛だって居る。人に危害だって…。その虎は見付かれば殺されるよ…。」
蓮は腰に掛かる短剣を手に持ち、ゴクリと唾を飲んだ。
今、弱っている隙に、
…この子を殺す気なんだ。