記憶 ―流星の刻印―


踊り子たちの前に座るのは、
ただの観光客じゃない。


以前に私が飲み物を引っ掛けて問題を起こした相手も、きっと…

どこぞの地位のある偉い人。
或いは、ババ様に選ばれて龍湖の里に辿り着いた、価値のある人…。


誰でも通過出来る、
そんな場所じゃなかった。


道行く商人の馬車も、
いつも決まった顔触れ。
きっと決められている、許可された人たちだけなんだ…。


「……知らない…」

こんな場所だった?
深い森に隠された、故郷。


「…知らないわ…」

…違うわ。
気付こうとしなかっただけ。

そう分かっているの。
でも、私は呟かずには居られなかった。


『世間知らず』

その本当の意味を、
改めて身を持って実感した。


太磨の言葉、

『我が姫』

ただ…、
馬鹿にしているだけの言葉ではなかった。



「……無事に、戻ったね」

視線を泳がす私の瞳が、
小柄なある人物で止まった。


「……ババ様…」

誰よりも、
威厳のある…、
高貴な空気を纏っていた。


乗っていた馬車の荷台からピクリとも動かずに、

声も出さず、
表情だけを動かして。


「…………。」

気が付けば、

私の顔は、
涙で濡れていた。


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