記憶 ―流星の刻印―


……眠れなかった。

処理しきれない情報が、
頭の中をグルグルと巡る。


感情が、追い付かない。

『母さんは殺された』

悲しいはずなのよ。
許せないはずなのよ。

何故か、涙が出ない。

8年前に1度乗り越えてしまった母さんの事故死。
その新事実を、今日知った。

多分…
飲み込めていないのね。
感情が追い付かない。


1つの火を灯しただけの、
薄暗い懐かしい部屋。
皆の寝息だけが私の耳に届く、
静かな長い夜。

ふぅ…と、
大きく漏らしてしまった私の溜め息に反応して、横に寝ていた大きな影がゴソッと動いた。


「……寝れないよな…?大丈夫か?嬢ちゃん…」

低く掠れた、
太磨の声だった。


「……太磨。…ごめんなさい、起こした?」

「…いや?起きてた…」

いつになく優しい声。

そう聞こえてしまうのは、私が弱っていて太磨に甘やかして欲しいから…、なのかしら…。


「……ねぇ、太磨。…あなた、疲れてる?」

「ん?…まぁ、程々に…」

漠然とした質問に、
漠然とした答え。


「……私ね?…母さんの眠る湖へ行きたいの…」

「…承知しました、我が姫?」

ふふ…と、笑う太磨。
その大人な反応を、
私は期待していたの。

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