記憶 ―流星の刻印―
「……おい、年齢的には、せめて『兄』だろうが…」
「…あら、駄目よ?」
「……なんで」
「兄貴分は…、蓮がいるもの…。ヤキモチ…焼かれるわよ…?きっと物凄い…」
蓮。
そうだわ…
蓮に会えていない。
きっと…
心配してくれてる…
瞼は完全に下りていた。
薄れる意識の中で、
蓮と美玲さんと別れた日を思い出していた。
あの日も…、
まだ何も知らない私は、母さんに旅立つ事を報告すると言って、この湖畔で…。
蓮たちは、
どこまで知っていたのかしら…。
さぁ…と、
心地良い風が吹く。
風は私の鼻先に、
白い百合の香りを運んでいた。
風で運ばれてしまった乱れた私の黒髪に、太磨の優しい手が触れているのを感じた。
不思議ね…。
太磨と過ごした時間は、
蓮たち程に長い訳じゃない。
でも…
嫌じゃない。
心地良い、
穏やかな時間だったの。