記憶 ―流星の刻印―
「……はぁ。嫌よ、もぉ…」
息も切れ切れよ。
ぜぇぜぇ…と、私は前のめりに、嫌がる足をそれでも何とか運んでいた。
『……ぅわぁん、太磨ぁ、抱っこ~…』
「…おいおい、置いてかれるのが嫌だから、ちゃんと歩くって言っていたのは一体どこの誰だ…」
『……ここの僕ぅ…』
私たちの少し前を歩く太磨は、憎たらしい位に涼しい顔。
始めは緩やかだった。
草原の地から登る山肌は、他の地よりは緩やからしいわ。
でも、そんなの最初だけ。
まだ緑豊かな山道を幾らか登る頃は、朝霧で湿った木々を眺めて深呼吸…なんて余裕もあったのに。
「…歩きなさいよ、ヘタレ。私がっ…太磨に抱っこして貰いたい位だわっ…はぁ…」
本当に。
嫌よ、この山道っ…。
もう緑豊かな木々なんて無い。
ゴロゴロとした石ころだらけの赤土の斜面は、登ろうとする人間の心を容赦なく折る。
どうしても…の用事でも無ければ、絶対に登りたくないわ。
「…これ、頂上になんて着けないわよっ…?ババ様、よく通えてたわねっ!!」
ご老体で。
その単語をあえて飲み込んだのは、登山する御一行にババ様も加わっているからよ。