記憶 ―流星の刻印―


「母さん、助けて。蓮が私を苛めるわ…」

「…苛めてないって。」

薄朱色の湖の畔。
事あるごとに訪れるこの場所に、母さんは眠っている。

母さんはよく蓮と私を連れて、この畔で踊っていた。

今はその場所に、母さんの大好きだった白い百合の花が、朱い空の下で風に吹かれて揺れている。


「…謝りに行かないの?」

「私は悪くないじゃない。ねぇ、母さん。母さんもきっと同じ事をしたわ。」

「…それは否定出来ないな。美々さんも、したかもね?正義感が強かったから…」

蓮の呆れた声。
でも私はその言葉に「ほらね」と勝ち誇った。


寂しくはない。

そう言い切ったら嘘になるかもしれないけれど、母さんが居ない毎日にも慣れた。

家族は居ないけれど、
口うるさい蓮も居るし。
村の皆も何だかんだ言っても、よくしてくれる。


「…帰ろ?揚羽。」

「そうね。…じゃあね、母さん。また来るわね…。」

私はそう立ち上がると、一歩前を歩く蓮の後を追った。


「今日は?うちで夕飯食べてくだろ?」

「あら、遠慮するわ?新婚のお宅に毎日お邪魔するわけにもいかないから。」

「……別にいいのに。」

蓮の照れた声。
幸せそうで何よりだわ。

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