記憶 ―流星の刻印―
誰もが羨む、幸せな結婚。
でも私にはピンと来なかった。
このまま、この村で穏やかに暮らす事も良いかもしれないけど…。
同時に自由を奪われる気がしてならなかった。
だから、
私は結婚なんて御免だわ。
決して「行き遅れた」から負け惜しみで言ってる訳じゃないわよ?
湖から村まで延びる砂利道を歩いていると、
私の耳が何かを捕らえた。
「……あら?」
「…何?」
立ち止まり辺りを見回す私を振り返り、蓮が不思議そうに返答を待っている。
「…うん、獣かしら?何かの鳴き声…」
風に吹かれる木々のざわめきの合間で、消え入りそうな小さな弱々しい声がしていた。
「…まさか!獣なんて居ないだろ。ここは草原の土地だよ?」
「そうなんだけど…」
草原の土地に獣は居ない。
生息するのは、優しい草食動物だけなのに…
でも…
気のせいじゃないわ。
「…ほら、『グルル』って…」
私は脇目もふらず、声を追って砂利道の脇の茂みを掻き分け始めていた。
「ちょっと、揚羽!獣だったとしたら大惨事だよ!?考えなしに行くんじゃない!危ないよ!」
「…もう…うるさいわね、平気よぉ…」