好きな人は、
気づいた気持ちが愛しくて
同時に切なくて胸元を掴んだ
嗚咽混じりにすすり泣く声は、一人きりの部屋によく響く。
溜め息の代わりに大きく息を吸って、あたしは涙を拭うこと無く奏の部屋を飛び出した。
階段を駆け降りて、走って走って。
もうこの際、肺なんて破裂しちゃっても良いっていう思いで走った。
辿り着いた、株式会社AJC。
奏が勤める大きなビル。
そこのガラス張りの自動ドアに映る自分を見て、思わず引いた。
スウェットの上に不釣り合いなトレンチコート、サンダルにスッピン、オマケに泣いた跡と異常に乱れた呼吸。
……好きな人に会いに行く格好じゃないよね。
ミニスカート履けば良かった。
髪の毛巻けば良かった。
可愛い、って言ってくれたグロス塗れば良かった。
「……はぁ…はぁ…はぁ…」
とりあえず会社の前の花壇に腰を下ろした。ほんとに肺が破裂しそうだ。
時刻は、15時。
……奏の仕事がいつ終わるかなんて、分からない。
けど、とりあえず待つ。
今はそれしか出来ないから。