好きな人は、
「なつこちゃん…」
声が聞こえたかと思えば、耳の後ろに潤くんの息がかかる。
恋愛経験皆無のあたしにとってはハイスピードすぎるこの展開に、どうすればいいのか声が出ない。
「…えっと…俺……」
ギュッと、背中で組まれた彼の腕の力が、一層強まる。
少し、苦しい。
でも、あたたかい。
「…えっとー………」
沈黙が続き。
いつまで経っても、潤くんの口からは"えっと"の続きが聞こえてこない。
どうしたの、と彼の胸元に埋まっていた顔を少し動かし見上げると、顔を見られるのを避けるようにあたしの顔は再び胸元に押し付けられた。
「ちょ待って……緊張してんのっ」
なんて耳元で喚くような囁きをするから、
「あ、うん」
と大人しく返事をしてしまう。
潤くんの言いたい言葉はなんとなく想像出来るけれど、このまま彼の腕の中にいれるのなら待っているのも悪くないかなあ、とか考えるあたし、何様だよ。
と思った矢先、あたしの体は彼の胸から引き剥がされた。
ついさっき、あたしと顔を合わせるのを拒んだのに、どうしたの。
目の前には、あたしと同じくらい顔の赤い潤くん。
「だからその、俺は、なつこちゃんが……」
この先が言えない、と言いたそうな焦燥感の見られる表情が、微笑ましくて、もどかしくて。
「好き?」
つい口に出して聞いてしまった。
「な、なんで言っちゃうかな…」
「言ったんじゃないよ、聞いたんだよ?」
しゅん、とした彼に少し意地悪してそう言ってみると、彼は頼り無さげにあたしの右手を掴み、そっぽ向く。
そして俯いたまま、
「…………すき。」
やっと聞こえるくらいの声量で言って、呼吸が止まるくらい速いスピードでその腕を引かれた。