好きな人は、
いつもいつも"好き"とか"大好き"とか"カッコいい"とか言いまくってきたけど、こんな真面目に冷静なテンションで"好き"と言ったのは初めてだ。
ていうか、わたしと三木先輩の間にこんな雰囲気が漂うのも、今日が初めてだ。
手元のコーヒーをじっと見つめる三木先輩と、その先輩を見つめる、わたし。
間もなく先輩は、浅くて長いため息を吐いた。
「……違う」
「え?」
「麻衣が俺のこと好きっていうのは、違う」
ミックスジュースの中でずっと重なっていた氷が、カランと崩れて音を鳴らした。
なんだこのタイミング。まるで効果音のような。
「……何が違うの」
「麻衣が一人で寂しい時に俺と会って一緒にメシ食うようになって…関わるのが俺だけだから、勘違いしてるだけだよ。別に俺じゃなくても、好きになってた」
俺じゃなくても、と先輩はもう一度呟いた。
にしても、なんでこの人ここまで言い切れるんだろう。"~だと思う"とかならまだしも、何でわたしの気持ちをそこまで決めつけれちゃうの、神様でも無いクセに。
わたしと先輩は、違う人間なのに。
「…やっぱ、三木先輩はバカだよ」
「……なんで」
「…だって。…あんなに"好き"って言ってきたのに………そんなこと言うんだから」
単に三木先輩が鈍いのか。
結局わたしの"好き"は、今まで彼には一度も伝わっていなかったらしい。びっくりだ。
いつも"好き"っていえば「はいはい」「うざい」「わかった」って。
あれ反応に困って流してるように言ってるんだと思ってたけど、ガチの無関心か。まじで相手にされて無かったのか。うわー、きっついなー。
この場合、バカなのは明らかにわたしだ。
一人でずっと騒いでて、今、面と向かって自分の言動を否定されてる。
わたしが先輩を想う気持ちは本気だから、そんなこと言われる筋合いは無い筈なのに。