好きな人は、
ちらり、と先輩を見ると、彼は相変わらずコーヒーのカップを見つめている。
珍しくボーッとしているし、先輩に何か心境の変化が起こるようなことがあったんだろうなぁ、とはバカなわたしでも何となく感じる。
それが何だったのかは分からないけど、やっぱり気になって無言の先輩に視線を送信。
すると、ゆっくりと目線を上げた彼と視線が重なった。
そして彼が、しばらく続いていたこの沈黙を断つ。
「好きとかって、そんな簡単に言えるもん?本気で言ってるとは思えないんだけど。」
いつも冷めてる彼だけど、いつも以上に冷たい口調だった。
少しだけ早い気がするニット帽を深くかぶり直し、三木先輩は伝票を手にして立ち上がる。
そのままわたしの右側をスーッと通りすぎ、気付けばカランコロン、とドアが開く音がした。
定まらない視界に居座るのは、半分残されたブラックコーヒーと水滴を帯びたグラスの中の、一口も飲んでいないミックスジュース。
とてもじゃないけど、それを飲む気にはなれなくて。
5分くらいボーッとした後、わたしはレジ前に立つウエイターの「ありがとうございました」にも反応せぬまま、喫茶店を後にした。