好きな人は、
意味が、わからなかった。
沢村さんの話はこうだった。
昨日の朝のホームルーム。
三年生の中で煙草を持っている人が見つかって、急遽持ち物検査。
その際、立入禁止の屋上の鍵が三木先輩のカバンから見つかり、指導室に連れていかれ。
鍵を管理する用務員さんの証言から、一年以上に渡って無断でそれを拝借していたことがバレたらしい。
用務員さんは、職員の誰かが持ち出していたと思っていたらしいけど。
それに加え校則違反の髪型や服装についても同時に指摘され、昨日の昼、処分が下るまでの自宅謹慎を言い渡されたらしい。
びっくりした。
嘘だと思った。
でも、そうなら辻褄が合うことが複数ある。
昨日先輩が屋上に行かずに非常階段に留まったのは、鍵が無くて入れなかったから。
目立たない格好で目立たない場所で会ったのは、謹慎中で他人と顔を合わせるのを避けたから。
服装が変わったのは、家に帰らざるをえなかったから。
学校にいないのは、居られないから。
「…か、帰るね………!」
無意識に、咄嗟に立ち上がる自分。
机にガタガタと当たりながら、教室を飛び出ようとしたとき。
「また、話聞くよ」
あたしで良かったら、と沢村さんが手をヒラヒラと振ってくれた。
廊下を走りながら、三木先輩に何度も何度も電話をかける。
無感情な留守電サービス案内の声しか聞こえないけど、粘り強く何度も何度もリダイヤル。
出るまでずっと、かけてやる。
100万回でも、1000万回でも。