好きな人は、
とにかく、出て貰えない電話を繰り返しかけながら走った。
三木先輩に会いたい。
会って、話がしたい。
でも三木先輩の居場所も家も分からないから、宛もなく方向も分からぬままとにかく走った。
三木先輩。
先輩は賢いんだから、鍵を勝手に持ち出すのはマズイって分かってた筈でしょ。
何やってんの。
なんで謹慎のこととかちゃんと話してくれなかったの。
先輩はわたしのことを分かりきってるように話すけど
わたしは先輩が全然わからないよ。
『…しつこい……よ』
耳元で三木先輩の声がしたとき、わたしは来たことの無い高架下にいた。
でもそんなことはお構い無しに、足は勝手に急ブレーキをかける。
「…みっき、先輩…今…どこ…っ!」
『家だけど』
呼吸が儘ならないわたしの口調とは対照的な、落ち着き払った先輩の口調。
あくまでも謹慎の事実を隠して昨日の空気を維持し続ける彼に、憎しみさえ感じた。
「…いえ…どこ………!」
『…教えないよ』
「じゃ…ぁ…どうす…ればいいの……!」
『何が』
ガタンゴトン、と、頭上を走る電車がうるさくて、お互いの声が伝わりにくい。
だから、叫んだ。
「…会いたいよー!!!!」
電車がうるさいお陰で、周りの視線は痛くならない。
お構い無しに、叫んでやった。
「…会いたい…よぉ…」
『…昨日会ったでしょ』
「今…会いたいの…!」
ワガママ言わないでよ。
いつものように、受話器の向こうで先輩がわたしを諭す。
『また、今度』
「今度っていつ!!」
そんな曖昧な言葉で濁さないで。
「…なんで…鍵のこと言ってくれなかったの…!」
わたしは、また叫んだ。