好きな人は、
とりあえず今、半開きの口は閉めることが出来ず、心拍数と血糖値共に上昇中。
帰ろっか、とふにゃんとした表情とは対照的に重たそうな大きなエナメルバッグを担ぎ直す男気溢れる潤くんに、あたしは無言で首を縦にブンブン振ることしか出来なかった。
心地よい風が吹く中、電灯に照らされたあたしと潤くんの影が前に伸びる。
頭の位置の差に、大きくなったなあ、とお婆ちゃんのような感情が芽生えた。
背も伸びて、口調は別として声も低くなって。顔つきもシャープになった気がする。
手も、大きくなった。
影の大きな潤くんの手と、あたしのそれより小さな手は触れそうなほど近いけど、なかなか触れ合わない。
いっそギュッと握ってしまいたいけど、そんな訳にはいかないし。
……もしそんなことしたら、潤くん慌てるだろうなあ。
「あ、桜。」
潤くんの声に、あたしは影から目線を正面に移した。
目の前に広がるのは、風で舞うピンク色の桜の花びら。
「お花見したいねー。」
女子高生でもあんまり言わないような発言をするのは、仮にも男子高校生。
たまに潤くんの頭の中はお花畑なんじゃないの、って本気で思わされる。
それなのにちゃっかり野球部で活躍なんてしちゃってるから、そのギャップにやられるこの循環機能、ほんと世の中上手くできてるなあ。
優しい目付きで桜を眺める彼の顔を、あたしはただただジッと見ていた。