好きな人は、








首が絞まって涙は引っ込み、引力で踵が数ミリうしろに引きずられた。





頭上の線路は一旦落ち着き、周りが少し静かになる。





でも、我が身に起こったことがよく分からなくて、まばたきを止めることができなかった。






わたしの首を閉めているのは、間違いなく人の腕で。





すっぽり覆われた背中は熱く、耳元でするのは荒い息継ぎ。





くるしい、と小さく呟くと、首を絞める腕の力が少し弛んだ。








「…あのさぁ…、こんな公共の場で何叫んでんの…。恥ずかしいとか思わないわけ」






電話越しじゃなくて、確かに真後ろから聞こえたその声に、またじわりと涙が滲んだ。


鼻から目頭にかけてが、締め付けられるように痺れて痛い。



ガタンゴトンうるさかった電車の音を頼りに現れたのか、と考えると





電車に感謝してしまう。






溢れそうな声を我慢すると、反動で体が震えた。






「…っ、公共の場でうしろから抱きついてくる人の方が、よっぽど恥ずかしいよー………っ!!!!」




わあわあ言いながらも彼の腕にギュッと強くしがみついて







心の底からこの手を放したくないと思った。




たとえ、今焼けそうに熱い背中がとろけても。








「たしかに」







溜め息混じりの先輩の声が、わたしの首筋に染み込んだ。


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