好きな人は、
好きな人は、一応彼氏

もう分からない距離感







別に怒ってる訳じゃないし、気持ちをぶちまけたい、とか思ってるわけでもない。自分から望んでこんなにモヤモヤして、我慢してる訳じゃない。


ただ、こうも会えない日が続くと、寂しさとか…なんて言うのかな、声が聞きたいなーなんて乙女チックな欲求が溢れ出るのも、無理は無いと思うんです。


そしてそんな欲求が、なんでこんな状況になるのよ、とイライラへと化学変化を起こして溢れ出すのも、これまた仕方ないことだと思うんです。



だから今。





さきほどからピンポンピンポンと何度も鳴る玄関のチャイムが、あたし、藤咲 亜子の神経を逆撫でしているように聞こえて、なんとも憎らしい。


とりあえず芸人のリアクションがうるさいテレビの電源を切り、そっと音をたてないようにリモコンを床に置いて、ベッドの中に潜り込んだ。


現在、深夜2時。
こんな時間に来るヤツなんて、アイツしかいない。

そのアイツに会いたくないから、あたしは今枕に顔をグリグリと押し付けてるんだ。むぐ、少し苦しくなってきた。



ぷはぁ、と布団から顔を出すと、いつの間にやらチャイムは鳴り止んでいたようで。

ホッとしたような気持ちと、帰ったのかよ、という残念に思う気持ちが混ざり合ったままベッドから出た。




ゴトッ



足元で響いた音に、全身の筋肉が一瞬で固まる。

目線を床にやると、置いたはずの位置から数十センチ移動し、壁に身を寄せているテレビのリモコン。



自分でそれを蹴飛ばし、壁に激突させたことを理解するまでに5秒ほど要した。

そしてその衝突音が合図かのように、突然玄関のドアがドンドンと叩かれ始めた。あ、居留守使ってるの完全にばれたな。



…ていうかまだいたのかよ、もー!



このままだとドアが壊れそうな上に御近所から苦情が来そうなので、仕方なく玄関へと向かう。


足音が聞こえたからか、ドアを叩く音は綺麗に止んだ。




< 78 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop