好きな人は、
黙り込んだあたしを見つめながら、奏は罰が悪そうにポケットから取り出した煙草に火を点けた。
「…そんなの、亜子だって全然連絡よこさなかっただろ。」
ふぅ、と吐き出した煙草の煙。
まるで面倒なあたしに対して溜め息をつかれたみたいで、やり場のない寂しさに襲われる。
「………だって、…」
あんな風に言われたら迷惑なんじゃないかと思ってできるわけない。
本当は電話もメールもしたかったし、会いにだって行きたかった。
何回会社の前まで行こうと思ったか。
でもはね返されそうで、怖かった。
忙しいから、今日は無理、悪いけど帰って。
そんな言葉で突っ返されそうな気がして、怖かった。