好きな人は、
「…ミルクティーで良かった?」
「あぁ、何でも良い。」
何でも良いって。めんつゆ出したろか。
そんなことを思いながら、奏が手足を温めているこたつの上に湯気が揺れるマグカップを置く。
外が寒かったのか、彼はこたつから手を擦り合わせながら出すと、いただきます、とカップを両手で包んだ。
そしてミルクティーを一口飲んで、ふぅ、と一息。
じゃああたしもこたつに入って一息つこうかな、と片足を入れるとピロピロ地味な効果音が聞こえた。
びっくりして無意識に肩が揺れ、持っていたマグカップからミルクティーが少しこぼれる。
急いで近くのディッシュケースに手を伸ばすと、奏の方から「もしもし」の声。
間もなく、彼は電話を手にしたまま立ち上がりトイレにこもってしまった。
彼がそこから出てきたのは、5分後。
頭を掻きむしり不機嫌そうな顔の彼は、こたつに再び足を入れること無くソファの上のカバンを手に取った。
「…帰るわ。」
「…仕事?」
「そう。」
どうやら呼び出しの電話だったらしく、奏はそのまま玄関に直行。滞在時間まさかの10分。
あたしはこたつに足を入れたまま、彼の背中を見送った。
玄関で見送ることもしないあたしは恋人としてあり得ない。でも、行ってらっしゃい、とか言いながら笑顔を向けることも、次いつ会えるの?と甘えることも出来ないんだから仕方ない。
無力で情けない、あたし。
気づけば溢したミルクティーはこたつにシミを作っていて、彼の飲み残したミルクティーからは、もう湯気は出ていなかった。