好きな人は、
なんとなく、気まずい予感がした。
携帯電話を握りしめたまま、ベッドから下りて玄関まで忍び足。
ドアの前で、小さく深く息を吐いた。
身を乗り出して見つめた覗き窓の向こうに立っていたのは予想通り、さっきまで携帯電話に名前が映し出されていた彼。
黒のスーツに身を包んだ奏は、寒そうにまた手を擦り合わせている。
そして、ポケットにその手を突っ込んだかと思うと取り出したのはスマートフォン。
あ、まずい。
気付いた頃にはもう遅くて。
彼とあたしの距離は、たった一枚のドアを挟んだ数センチ。
彼からの着信が入ったあたしの手元の携帯電話から、大音量で音楽が流れた。