好きな人は、
当然、居留守や着信をスルーしたことに加え、あたしが至近距離のドア越しに立っていることまでバレたわけで。
覗き窓の向こうの彼は、少し呆れた顔をした。
「…今開けるから。」
ガチャ、ガチャ、と2つの鍵を開け、ドアを押す。
直後冷たい空気と共に、奏は玄関に滑り込んだ。
「………さっむ…なんで開けてくんないの。」
「……今開けたじゃん。」
「あー、さむ…」
肩をすくませ、寒さで全身の筋肉が緊張状態のような彼はこたつに直行。
手足を入れて一息吐いた。
「…仕事は?」
「はやく終わった。」
はやくって。日付変わるまであと一時間も無いよ。
とりあえずふーん、と返してこの間飲み残して帰ったミルクティーを再び淹れる。
こたつに持っていくと、彼は口元を緩めながらそれを口に流し込んだ。
奏の笑顔は、薬だ。
あたしの気持ちを楽にしてくれたり、癒してくれたり。
でも、すごく苦い。
「……どうした?」
「………え?」
彼の声に、パッと顔を上げる。
同時に自分が俯いていたことに気がついた。
「溜め息。最近そればっかり。」
最近って言っても3日前からだけど、と奏はもう一口ミルクティーを飲む。
あたしは自分では気づいていなかっただけで、思っていたより前から溜め息がクセになっていたらしい。
ごめん。
そう言おうとしたら、彼の言葉に遮られた。
「ごめん。」