失恋オブリガード
「…ただいま~」
小さな小さな声で言って、家のドアを開けたのは深夜2時。
電気が点いていたことに、私は驚いた。
「おかえり、お疲れ様」
部屋の奥から、スウェット姿の龍平が出てきて私の荷物をサッと受けとる。
え、まだ起きてたの?
聞くと、優しい笑顔で頷いた。
回る電子レンジの機械音と、ボリュームの低いテレビニュース。
部屋着に着替えたと同時にテーブルに出されたのは、ホクホクのハンバーグ。
「レンジで温めるくらい、私やるのに」
「ええって。疲れてるやろ」
目の前に座って私を見る彼に、長い付き合いながら少し照れた。
自分も勉強大変だろうに。
司法試験なんて私には縁の無い話だけれど、血の滲むような努力が必要なことは分かるよ。
「美味しい?」
「うん、凄く美味しい」
「良かった」
龍平の笑顔見てると、幸せ。でも、哀しくもなる。
ずっと仕事ばっかりで、起きる時間も帰る時間も普通じゃない。
家にいる時間なんて、ほんの一瞬なんだ。
なのに、いつも笑顔で何も言わない龍平。
深夜に帰っても、深夜に出勤しても、朝早く起きても朝早く帰っても。
私が家にいるときは、必ず彼が優しい笑顔を向けてくれる。
嬉しいけど、心配なんだ。
龍平が幸せかどうかが。
どんな顔で会えばいいのかが。