嘘でもいいから


薄暗い部屋の中、二人きりだけの瞬間。


胸の中に顔を埋めて、一定のリズムを刻む彼の胸の鼓動を聞きながら、


髪をなでる彼の手の感覚を楽しむ。


このまま、ずっとこのままでいられれば良いのに。


だけど、


私は気づいている。


彼の目線の先が、ベッドの隣に置かれたデジタル時計にあることを。








薄暗い部屋に浮かび上がる蛍光色の時間。


それがもっと進めば、


もう彼は帰らなければならない。















―――私の手を握って、私の体を愛して、私の髪を撫でる左手の薬指に光るモノの先へ。


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